第20章 10月31日 渋谷にて
「……よしっ」
もう落ちるという寸でのところでパンと手を叩くのと同時に日下部もパンダも呪詛師達も一目散にその場から離れる。
1秒にも満たない間に激しい衝撃とともに一帯が火の海となった。
爆心地付近の建物はことごとく炎に飲まれる。
落ちた隕石の上で漏瑚は息を荒げていた。
「宿儺といえど、無傷では済むまい」
「当たればな」
無情にも宿儺は胡座をかいて漏瑚の少し後ろに座っていた。
言葉通り当たらなかったのだろう、その身体には傷ひとつない。
そして漏瑚に問いかけた。
「何故領域を使わない?」
領域内ならば術式は必中、先程の極ノ番もこちらが何も手を打たなければ有効打となっていただろう。
加えて、以前宿儺は虎杖を通して漏瑚が領域展開するところを目撃している。
完成された領域であったし、難なく展開していたにもかかわらず、この場で使わなかったのは何故なのか。
「……領域の押し合いでは勝てないことは分かっている」
「五条悟がそうだったからか?ククッ、負け犬根性極まれりだな」
漏瑚はギリと歯噛みする。
「だが、せっかく興が乗ってきた所だ。オマエの得意で戦ってやろう」
「“■”“開(フーガ)”」
そう唱えた宿儺の手の中に炎が現れる。
「……それは、炎か?」
「そうか、知られているものと思っていたが、そもそも呪霊、知らぬはずだ」
目の前の現象をどれほど考えても漏瑚には分からない。
どういうことだ?
宿儺の術式は“切断”や“斬撃”ではなかったのか?
呪霊や術師が持つ生得術式は原則1つのみ、そこから拡張させて様々に応用させることは可能だが、今宿儺がやっているのは拡張術式などではなく、全く別の……
「心配せずとも術式の開示など狡い真似はせん」
驚愕で固まってしまった漏瑚に宿儺は片目をすがめ、手の中の炎を強めた。
「構えろ。火力勝負といこう」