第20章 10月31日 渋谷にて
と、パンダがまさに入ろうとしたビルの上から人の気配が。
2人は警戒態勢で立ち止まる。
「高専の術師だな」
ビルの上には包帯で片目を覆った男と金髪の女、見たことない顔だ。
「投降しろ。できれば術師は殺したくない」
口ぶりからして呪霊と組んでいる呪詛師といったところか。
日下部はパンダに耳打ちする。
「パンダ」
「後ろに3人、多分もっと隠れてる」
囲まれたな。
短く息を吐いて呪詛師を見据える。
「俺も殺されたくはないが、はいそーですかって訳にもいかんのよ。話を聞かせてくれ、長〜いやつを」
「私達は夏油様の遺志を継ぐ者。高専関係者なら、それ以上語る必要もないでしょう」
夏油の遺志を継ぐ……
あの日、祢木 利久と須田 真奈美はそう決意してあの双子と袂を分かったのだ。
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百鬼夜行が失敗に終わった後、殺されたはずの夏油が奈々子達の前に現れ、五条悟の封印についての計画を持ち掛けてきた。
美々子と奈々子をはじめ、夏油に救われ、共に家族として過ごしてきた者達には、百鬼夜行後に現れた夏油が偽物だとすぐに分かったが、その協力について意見が割れたのだ。
「アイツに協力する?」
奈々子が怪訝そうに眉を寄せた。
「それは夏油様の肉体を取り戻すために……って意味っしょ?」
「違う。あの偽物の目的も正体も定かではないが、五条悟が行動不能になり、世が混沌に堕ちれば割を喰うのは非術師共だ」
祢木の返答に奈々子もその隣にいる美々子も一段と表情が険しくなる。
「強者であることが生存の必要条件。非術師共は淘汰され、術師は増え、呪霊は消えていく。それは夏油様が望んだ世界だ。だから協力する、肉体のことはこの際関知しない……それが、遺志を継ぐということだ」