第20章 10月31日 渋谷にて
しかし、いくら天与といえど人間の体であることは変わりない。
脳の損傷は致命傷になる。
まもなく甚爾は倒れ、理解の追いつかない伏黒の目の前で絶命した。
游雲を回収するため、遺体に近づいた伏黒はその顔があの男ではなくなっていることに気づいた。
筋骨隆々としていた体型も見る影もない。
顔と体型が変わってる。
自害したことといい、なんだったんだ、コイツは……
特級呪霊の領域内で直毘人は驚いたようにあの男を見ていた。
……彼を知っているようだった。
そして彼は、伏黒に名前を尋ね、「よかったな」と……
まるで自分のことを知っているようだった。
しかし、伏黒自身は見覚えがない。
思考を遮るように刺された脇腹に鋭い痛みが走る。
今考えるのはよそう、早く家入さんの所へ……
いや、その前に渡辺達の無事を……
ふらつきながら立ち上がり、歩き始める。
すると、すぐ目の前の大通りに人が倒れているのが見えた。
高専の制服に手には刀。
小柄な体型……
……渡辺だ。
なぜこんなところに?
俺を追いかけてきたのか……?
「渡辺……?」
目を凝らすと、倒れて動かない彼女の額と首、そして左足には流血の痕が。
特に首元は真っ赤に染まり、かなり出血したことが窺える。
あの特級呪霊を倒した後に何者かに襲われたのか!?
游雲で刺された箇所が鋭く痛み、思うように走れなかったが、それでも急いでなずなの元へ向かう。
彼女を襲った者が近くにいるかもしれなかったが、なずなの負傷の状態を確認するのが先だ。
あと少しで大通りに出る。
と、次の瞬間―
ザシュッ
背中に衝撃と激痛、そして血が飛び散った。
背中を深く斬られた。
倒れそうになるのを歯を食いしばってなんとか踏み留まり振り向くと、見たことないサイドテールの痩せた男。
「これこれ、こーいうのよ!!」
嬉々とした男が手を繋ぐように持っている呪具の刀身は血に濡れている。
付着しているのは伏黒の血だろうが、おそらくなずなもこの呪詛師にやられたのだ。
彼女を傷つけられた挙句、術師をおびき寄せる餌にされた……!
怒りで腑が煮えくり返り、視界が白く弾けるかのような錯覚さえ覚える。