第20章 10月31日 渋谷にて
一方、游雲を持ち上げた甚爾は、すぐには攻撃に出ず、静かに伏黒を見つめていた。
その面影にあの冬の日を思い出す。
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「俺のガキだが、ありゃ完全に持ってる側だ」
10年以上前のある冬の日、甚爾は京都駅で直毘人と会っていた。
禪院家当主というのもそうだが、話が通じる相手が彼しかいなかったというところが大きい。
この日、甚爾が持ちかけたのは息子の恵のことだった。
「5、6歳、術式の有無がハッキリしたら、オマエらにやらんこともない。勿論金次第だがな」
術式を持った男子、禪院家なら欲しがるはずだ。
「相伝の術式なら8、それ以外でも7はもらう」
若干吹っかけすぎかもしれないが、ここからの交渉で妥当なところに落ち着くだろう。
そう考えていたのだが、直毘人の返答は思いもよらぬものだった。
「ハッ、相伝なら10やろう」
直毘人と分かれ、雑踏を歩いていく。
失ってからというもの、最愛の人の最期の言葉が浮かんでは消えを繰り返していた。
―恵をお願いね―
俺にとってはゴミ溜めでも、術式があれば幾分マシだろ。
もうどうでもいい、
どうでもいいんだ……
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「オマエ、名前は?」
「?……伏黒……」
「……禪院じゃねぇのか」
ようやく繋がった。
今、目の前にいるのは成長した息子。
記憶の中での姿は3歳で止まっているから、10年以上経つのだろう。
高専の制服に袖を通し、姓も“伏黒”のまま成長した恵。
あの時の、最期の選択は間違っていなかった。
満足した甚爾は構えていた游雲をおもむろに自らの頭へ。
「よかったな」
そう言い残すと、躊躇うことなく自身の側頭部に突き刺した。
魂さえ上書きする天与の肉体。
暴走した術式さえ彼の前では……