第20章 10月31日 渋谷にて
伏黒は襲い来る甚爾から全速力で逃げ、細い路地に入っていた。
あっという間に追いつかれ、游雲で頭を狙われるが、曲がり角に控えさせた蝦蟇が舌を巻きつけてかろうじて避け、甚爾と対峙する。
路地には無数の脱兎と蝦蟇1匹。
式神はあくまで補助的に使うに留める。
特級呪霊を1人で祓った男だ。
真正面から戦っても勝ち目はない。
こちらが勝っていることは何かと考え抜いた結果、左右を建物に囲まれ、前後にしかスペースのないこの場所が最適と考えた。
俺の唯一のアドバンテージ、それは家入さんが渋谷に来ていること。
上段に游雲を構える相手を見据え、伏黒も影から呪具を取り出す。
特級を圧倒した化物。
俺の式神なんて瞬殺だ。
だが、これからの渋谷で式神を失って手数を減らすわけにはいかない。
……だから、無理を利かすなら自分自身。
家入さんが治せてかつ即復帰できる範囲でこの場を収める……!
コースは絞った。
ここなら前方からの攻撃のみに集中できる。
呪力なしで少年院の時の宿儺並の超スピード、おそらくコイツは真希さんの完成形だ。
目で追うな、タイミングだ。
タイミングを外せば死ぬ。
伏黒の心臓を狙って一直線に突進してくる。
地面には無数の脱兎、その下は相手には見えていない。
タイミングを外せば、死―……
伏黒はその足下に影を伸ばした。
ズブリと甚爾の足が影に沈む。
足を取られ、游雲の軌道は狙いを外れて伏黒の脇腹に刺さった。
「っ!」
よし、ずらした!
すぐ游雲を持った腕を捕まえ、呪具を胴体へ刺す。
が、
甚爾はもうそこにはいなかった。
クソッ、なんでこれが避けられんだよ!?
距離にして数歩分離れた甚爾は服が少し切れているだけ。
また游雲を構え始めるのを見て、伏黒は歯噛みする。
「どうするかな……」
打つ手がなくなった訳ではない。
まだ奥の手が残っている。
だが、これは切ってしまえば後戻りできない切り札―……
やるしかないのか……?