第20章 10月31日 渋谷にて
なずなも鬼切を手放していないが、初撃の首の負傷、貫かれて治せない足の出血と頭をぶつけられたことで、だんだんと意識が朦朧としてきていた。
痛、い……
目が……見えない、のに、眩暈がする……
傷が、治せない……治す暇がない……
伏黒、くん……
「あれ?おーい……気絶しちゃった?」
なずなは抵抗する力すらなくなり、ぐったりしてしまう。
気絶したなずなの頬を重面がつねるが、反応はない。
痛がってくれなければ楽しくないというのに。
重面は肩をすくめ、なずなの足に突き刺した呪具を引き抜いた。
このままどこかに連れて行って、起きたらまた痛めつけてやればいい。
今度は切りつけてみたいから、手足が拘束できる場所に行かなくちゃ。
気絶したなずなを抱えようとすると、ふと呪具が路地の方向を指差した。
「何?」
重面が顔を上げても何もないが、何者かの呪力の気配がする。
そしてあることを思いつき、突然、方向転換してどこかへ走り去ってしまった。
貧血で視界が真っ暗になる中、わずかに意識を取り戻したなずなの耳は遠ざかる重面の足音を拾っていた。
な、んで……?
どうしていきなり逃げたの……?
靄がかかったように回らない頭でいくら考えてもその行動の意図が分からない。
指一本すら満足に動かせないため、後を追うこともできなかった。
そして、薄く浮上した意識も瞬く間に暗闇に沈んでしまう。