第1章 妖刀事件
呪霊はなずなの母と兄が殺されていた居間にも出現していた。
しかも先程より数が多い。
少し時間がかかりそうだ。
……呪霊が、なんで私の家の中にいるの……?
なずなは戦っている伏黒の背中を見つめながら、ぼんやりとそう思っていた。
伏黒の背中越し、居間の中央あたりに呪霊が身を屈めているのが見える。
その呪霊になずなの目は釘づけになった。
母が食べられかけている。
その光景だけは嫌に現実味をもってなずなの目に映った。
「……お母さんっ!」
「よせ、行くな!」
伏黒は他の呪霊を相手にしていて、手が回らない。
なずなはその横をくぐり抜け、床に落ちた兄の守刀を拾い、母を飲み込もうとしている呪霊に向かっていく。
この短刀は呪具だ。あの呪霊にも効くはず。
ただただ、母をこれ以上傷付けてほしくないという一心で、呪霊の顎に短刀を突き立てた。
呪霊の口が開いたのを見て、すかさず母を引っ張り出す。
「玉犬、あの呪霊を祓え!」
すぐになずなの横を玉犬が駆け抜け、呪霊を祓う。
「危ないだろう!?なんで飛び出して……え……!」
呪霊をすべて祓い終えた後、伏黒はなずなに忠告しようと向き直り、そこで息を呑んだ。
「うぅ、ひっく……」
なずなが母親の遺体を抱きしめて泣いていた。
なずなの張りつめていた心の糸がそこでようやく緩んだのだ。