第20章 10月31日 渋谷にて
追われることが分かりきっているので、ここから逃げるわけにもいかず、せめて呪具の方を止めようと動くが、割り込んでくる重面に攻めの手は阻まれるばかりだ。
重面も鈍ったなずなに気づく。
「さっき君と同じ制服の子と戦ったんだけど、君の方が弱いや」
「っ……どうして生きてるの?あなたは殺されたはずなのに」
「なんだ、あの白スーツに聞いたの?俺は運がいいからね、まぁ、術式の影響もあるんだけど」
運と術式……!
致命傷を治す術式?
それとも相手に死んだと誤認させる術式?
考えても分からないし、多分開示もされない。
油断できないけれど、早く足か呪具を潰さないと……!
刃と刃がぶつかり合って力比べになるものの、なずなは負けなかった。
しかし、押し込めそうなところで、流される。
重面の呪具は持ち手部分も動くため、変則的な軌道は少し読み難く、手を繋ぐように持っているので、叩き落とすのも容易ではない。
両者決定打に欠ける中、重面はなずなの動きの違和感に勘づいた。
「あれ〜?君、もしかして人殺せない?」
「っ!」
「やっぱりそうでしょ!優しそうだもんね?」
なずなの僅かな表情の変化に重面は確信する。
相手は自分を傷つけられない、こちらは相手を傷つけ放題。
対するなずなは攻撃に精彩を欠くものの、重面の攻撃を避けるくらい難しくはなかった。
だが、人を斬れないというのは大きなディスアドバンテージ。
それが敵にも割れてしまったため、重面はなずなの攻撃を避けもせず、激しく攻め立ててくる。
「あっは!斬れないよね、斬れないんだよね!」
刃が重面に当たりそうになると、なずなはどうしても咄嗟に腕を引いてしまう。
思わぬ楽しみを見つけたと重面はニンマリと嗤う。
加えて重面は本人の言う通り、殊更に運が良い男だった。