第5章 怪異迷宮
急激に緩んだ宿儺の気配に伏黒はフッと呪力を解く。
虎杖の身体から紋様が消えていく。戻ってきたのだ。
ああ、間に合わなかった……
「……言っておくが、俺はオマエを助けた理由に、論理的な思考を持ち合わせていない。危険だとしてもお前のような善人が死ぬのは見たくなかった」
それなりに迷いはしたが、結局はわがままな感情論。
「でも、それでいいんだ……俺はヒーローじゃない。呪術師なんだ。だから、オマエを助けたことを一度だって後悔したことはない」
「そっか。伏黒は頭がいいからな。俺よりいろいろ考えてるんだろ。オマエの真実は正しいと思う。でも俺が間違ってるとも思わん」
くしゃりと笑った虎杖の胸から再び血が溢れ出す。
「あぁ、悪い、そろそろだわ。伏黒も釘崎も渡辺も、五条先生は……心配いらないか、長生きしろよ……」
そう言い残して、虎杖はゆっくりと倒れた。
雨粒が右腕に当たる痛みで目が覚める。
本降りの雨はどんどんなずなを濡らしていった。
痛みに呻きながらもなんとか起き上がる。
砕けた右肘は動かないが、気絶する前より痛みはだいぶ引いていた。
左手ならまだ鬼切を握れる。
足も動くし、立てる。
ーーまだ、戦えるーー
宿儺はどこに?
伏黒くんは無事なの?
意識を失う前までの宿儺の強烈な圧はもう感じない。
伏黒の呪力の気配を辿った先にはボロボロの伏黒とうつ伏せに倒れた虎杖。
「虎、杖くん……?」
動かない虎杖に駆け寄って、状態を確認するが、息をしていない。
「宿儺に心臓を抜かれた状態で、虎杖に戻ったんだ……」
伏黒が憔悴した声でそう伝えた。
記録ー
2018年7月
西東京市 英集少年院
同・運動場上空
特級仮想怨霊(名称未定)
その呪胎を非術師数名の目視で確認。
緊急事態のため
高専一年生4名が派遣され、
内1名 死亡。