第5章 怪異迷宮
ーーどうする?
宿儺に吹き飛ばされ、痛みで鈍る頭で考える。
生得領域を抜けるのに式神を一通り使ってしまった。
玉犬・白と大蛇は破壊され、鵺も限界だ。
壊されるよりはと術式を解く。
さっき宿儺に投げ飛ばされた渡辺はおそらくまだ気絶しているだろう。
たとえ起きていたとしてもあの大怪我ではこれ以上戦えない。
だが離れた場所にいるのは幸い。巻き込んでしまうおそれはない。
「なるほど、オマエの式神、影を媒体にしているのか」
目の前に降り立った宿儺は胸に空いた穴以外無傷だ。
パワーもアジリティも桁違い。術師としての格が違う。
「だったらなんだ?」
聞き返した伏黒に宿儺はふむ、と顎に手を当てる。
呪符を使うありきたりの術式ではない、応用も効く。
「分からんな。オマエ、あの時なぜ逃げた?」
「?」
「宝の持ち腐れだな……まあいい、どのみちその程度ではここは治さんぞ」
宿儺はそう言って胸の空洞を指差す。
バレてたか。
「つまらんことに命を懸けたな。この小僧にそれほどの価値はないというのに」
『……じゃあ、なんで俺は助けたんだよ?』
伏黒の脳裏に虎杖の言葉が蘇った。
不平等な現実のみが、平等に与えられているー
疑う余地のない善人だった、誰よりも幸せになるべきだった、姉の津美紀。
それなのに、呪われてしまった。
俺の性別を知らずに恵なんて名前をつけた父親は、今もどこかでのうのうと生きている。
因果応報は全自動ではない。
悪人は法の下で初めて裁かれる。
呪術師はそんな報いの歯車のひとつだ。
少しでも多くの善人が、平等を享受できるように。
俺は、不平等に人を助ける。
ありったけの呪いを乗せ、一気に呪力を練り上げる。
「いいぞ、オマエが命を燃やすのは、これからだったわけだ」
急激に増した伏黒の重圧に宿儺は満足げに目を細める。
「ならば魅せてみろ、伏黒 恵!」
「布瑠部、由良由良、八握……」