第5章 怪異迷宮
少年院から呪いの気配が霧散した。
「!、伏黒くん、今の」
「ああ、生得領域が閉じた。中にいた特級が死んだんだ」
あとは虎杖が無事に戻れば任務は完了する。
ホッとしたのも束の間だった。
「残念だが、奴なら戻らんぞ?」
伏黒の後ろから虎杖が出てくる。
いや、顔に紋様が浮かび、雰囲気もまるで別人。
なずなは初めてだが、伏黒には覚えがある。
両面宿儺だー
少年院の中にいた時よりも勝る恐怖に伏黒もなずなも動けない。
「そう怯えるな。今は機嫌がいい、少し話そう」
宿儺はゆっくりと歩き出し、こちらを振り返る。
「これは何の縛りもなく俺を利用したツケだな。俺と代わるのに少々手こずっているようだ……しかしそれも、時間の問題だろうな」
宿儺と交代して両手の傷を治し、さらに少年院の特級呪霊を祓った。
もともとは虎杖に主導権があり、宿儺は表に出てこれない。だが今は、一時的にそれが逆転していた。
「そこで、俺に今できることを考えた」
ためらいなく服を破り捨て露わになった上半身にも顔と同じような紋様が出ている。
「何を……っ!」
息を呑む伏黒の隣で、なずなは思わず目をつぶってしまう。
宿儺自ら鋭く尖った爪で胸を突き、心臓を抉り出したのだ。
空洞になった胸から血が溢れ出し、みるみる足元に血溜まりができる。
「小僧を人質にする。俺はコレなしでも生きていられるが、小僧はそうはいかない」
なんでもないかのように宿儺は心臓を捨てて続けた。
「俺と代わることは死を意味する。……そして更に、ダメ押しだ」
手には宿儺の指。
少年院の特級呪霊が取り込んでいたのか。
それを飲み込んでしまう。
「さてと、晴れて自由の身だ。もう怯えていいぞ、殺す。……特に理由はない」
「あの時と立場が逆転したな……」
伏黒はそう呟いて、宿儺を睨んだ。