第5章 怪異迷宮
「……うわっ!?」
突如野薔薇の身体が思いもよらぬ方向から引っ張られる。
気づいた時には、大きな蛙の口に収まっていた。
野薔薇を捕まえていた呪霊は大きな蛇に噛みつかれ、あっという間にバラバラにされる。
蛙は腹に、蛇も額に紋様がある。
あれは、伏黒くんの式神……!
野薔薇ちゃんはこれで大丈夫だ。
安堵でなずなの目には涙が滲む。
「釘崎、渡辺、早くここから脱出するぞ!」
蛇の式神・大蛇をなずなの方へ向かわせ、浮かんでいる呪霊を祓うと、すぐになずなも切り抜けて、こちらへ走ってくる。
「渡辺は動けるか?」
震えながら何度も頷くなずなは、目に涙を浮かべているが、大きな怪我はない。
野薔薇となずなが合流していたのは、不幸中の幸いだった。
「カエル、苦手なんですけど……」
「悪かったな!」
野薔薇がげんなりと呟いたが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
大蛇を解いて玉犬を出す。
あとは出口を見つけるだけだ。
一刻も早くこの生得領域から出なければ、囮として残った虎杖が保たない。
「出口まで急ぐぞ!」
「ね、ねぇ、虎杖くんは?はぐれちゃったの……?」
なずなは走りながら、前を行く伏黒に不安そうにそう尋ねた。
なずなも野薔薇も特級呪霊を見ていない。
虎杖が囮として残っていることを知らないのだ。
伏黒は歯噛みする。
「後で話す。今は脱出することだけに集中してくれ」
何かを堪えるような伏黒になずなも非常事態を察し、それ以上は聞けなかった。
玉犬がひとつ吠える。
出口を見つけたのだ。
通路の先の扉を音を立てて開くと、最初にここに入った時と同じ風景が広がった。
生得領域を抜けられた。
すぐさま伏黒の指示で玉犬が遠吠えで合図する。