第5章 怪異迷宮
呪霊にやられた額の傷が痛んだが、野薔薇は起き上がり、悔しげに視線を上げた。
呪霊の群れと戦うなずなは負けているわけではないが、決して優勢とはいえない。
五寸釘が残っていれば、加勢できるのに、今入っていっても足手まといになってしまう。
せめて巻き込まれない場所まで下がろうと立ち上がりかけるが、腕を引っ張られて立てない。
振り向くと、キノコの形をした呪霊が自分の腕を掴んでいた。
呪霊はたくさんの目を細めてケケケと笑う。
数はだいぶ減らした。
でも学習しているのか、なずなの攻撃をよく避けるようになってきている。
浮いている間隔も広くなってきていて、戦いにくくなるばかり。
歯噛みしている後ろから鋭い声が飛んできた。
「っ、触んじゃねぇっ!!」
野薔薇の切迫した声の方を見て、なずなは瞠目した。
……え、新手?
キノコに口がついた呪霊と手足の生えた目のない鯰のような大型の呪霊が野薔薇に襲いかかっている。
野薔薇を助けようと足を向けると、示し合わせたかのように仮面の呪霊が一斉になずなの行く手を塞いできた。
「邪魔しないでよ……!」
野薔薇は呪霊との戦いで傷を負っている。
その上、武器は金槌だけ。
野薔薇を掴んだ呪霊は、今にも彼女を食べてしまいそうだ。
「野薔薇ちゃん!!」
すぐにでも助けに行きたい。
でも、仮面の呪霊に邪魔され、思うように野薔薇の所まで行けない。
「オマエ、顔覚えたからな。絶対呪ってやる」
悪態をつく野薔薇を高く掲げ、呪霊はあんぐりと口を開き、ゆっくりと口に運んだ。
ダメ、やめて……!
呪霊に食われかけた母の姿が野薔薇と重なった気がした。