第20章 10月31日 渋谷にて
「逃げたら、か……」
漏瑚が目を細める。
「回答は……逃げずとも、だ」
その言葉を皮切りに突如全てのホームドアが開き、ひしめいていた人々が線路に雪崩れ込んでくる。
いきなり線路に落とされ、パニックになりかける人に「下がって、死ぬよ」と一応注意しながら、五条は内心やりにくさを感じていた。
あー……
さっき出口を塞いだのは、向こう側に人間がいるか分からなくするためのブラインドみたいなもんか。
これじゃ迂闊に突破できない。
ただでさえ非術師が多すぎて戦い辛いってのに。
好まない状況を用意してくるあたり、ちゃんと準備してきたらしい。
となると、奴らの次の行動は……
漏瑚は落ちてきた人間を片っ端から燃やし、花御は殴殺しながら五条との距離を詰めてくる。
脹相はその場から動きはしないものの、赤血操術・苅祓で手当たり次第に人々を切り裂き始めた。
耳をつん裂くような悲鳴と我先に逃れようとする人の波、そして、切り裂かれた人間の血飛沫。
早くしないと非術師は皆殺しだと言わんばかりの行動だが、そんなことでは五条の集中力は削がれない。
迫る漏瑚と花御の拳が五条の無限に阻まれてピタリと止まった。
しかし、そこは漏瑚達も対策済み。
ニヤリと嗤い、纏った呪力を変質させていく。
「領域展延」
すると、阻まれていたはずの拳がゴリゴリと無限を削り始めた。
予想外の動きに五条はホームまで退避する。
「成程……というか、呪詛師と組んでるんだからそう来るか」
領域展延……
シン・陰の簡易領域と同じだな。
本来の結界術として相手を閉じ込める領域展開を“箱”や“檻”とするなら、領域展延は“水”……
自分だけを包む液体だ。
領域を押し返す時の初動に近い感覚かな?
必中効果は薄まるが、確実に術式を中和してくる。
これなら僕にも攻撃は当たる。