第33章 断章 全身全霊チョコレート・パニック!
文句が次々飛び出してくるかと思ったが、すぐに事態は一変する。
その原因は伏黒の向かいでモジモジしていたなずなの爆弾発言だ。
「あ、そうだ、もしよかったらこれ、2人に友チョコ。たくさん手伝ってもらったお礼に……」
なずなの手にはポップな柄の小袋に入ったニコニコ笑顔の玉犬チョコ。
チョコを差し出された2人はヒュッと息を呑み、顔を引きつらせることしかできなかった。
確かに試作を重ねる度に技術を身につけて着実に美味しくなってはいた。
そのことからこの友チョコも相当の出来栄えだと想像はつく。
だが今はチョコに対する拒絶反応の方が遥かに上回っていた。
この3週間試食に次ぐ試食によりただでさえ食傷状態、玉犬の笑顔も眉間と鼻筋に影が入ってなんだか怖い笑顔になっている……という幻覚さえ見えてくる。
「頼むからもう勘弁してっ!!」
全力のなずなは恐ろしい。
骨身に沁みた虎杖と野薔薇は声を揃えてその場から脱兎の如く逃げ出した。
「ったく、アイツら」
その一部始終を見ていた伏黒は悪態をつきながら嘆息し、貰い手のなくなってしまったチョコを手に呆然と立ち尽くしているなずなに寄り、チョコの入った小袋を2つとも取り上げる。
「あ、あの、恵くん……?」
「授業終わったら2人で食わねぇか?このところずっと練習してたんだろ、その話も聞きたい」
「う、うん……!」
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放課後、寮の共同スペースのソファに仲良く並んで座る2人の姿があった。
ソファの前のローテーブルには様々な表情の玉犬チョコが広げられ、その1つ1つをなずなが解説している。
「これはこの前の体術訓練の時に虎杖くんと一緒に走ってた時の顔で、こっちは皆に撫でられてる時の顔、狗巻先輩がお手本を描いてくれたんだ」
「これはね、最初はもっと目が丸かったんだけど、野薔薇ちゃんが『もっと鋭くないと玉犬っぽくない』ってアドバイスしてくれて、あっちの顔はパンダ先輩が『俺の次に可愛いな』って言ってくれたんだよ」
なずなの話を聞く伏黒は終始優しい表情を浮かべていた。
―了―