第20章 10月31日 渋谷にて
大規模な任務になりそうだし、返事は明日以降か、と考えていると、隣にいた猪野に軽く肩を叩かれた。
「伏黒、“帳”……結界の効力の足し引きに使える条件っていうのはな、基本“呪力にまつわるモノ”だけなんだ。ざっくり言うと人間・呪霊・呪物だな」
猪野にとっては少し歳の離れた後輩、しかもまだ1年生ということもあり、伏黒に色々教えてやろうという腹づもりである。
「だから電波妨害とかは帳が降りたことによる副次効果であって、帳の結界術式そのものには電波の要否は組み込めないんだぜ」
「あ、はい、知ってます」
しかし、それは伏黒にとっては周知の事実であり、得意げに話していた猪野はピシリと固まる。
そんな猪野を七海がたしなめた。
「猪野君、彼は優秀です。先輩風は程々に」
「どういう意味スか、七海さん!」
抗議する猪野を差し置いて七海は更に伊地知に尋ねる。
「……それで、五条さんは?」
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同じ頃、別働班である真希、野薔薇、なずなは特別一級呪術師である禪院 直毘人と共に、補助監督の新田に案内される形で渋谷マークシティへ向かっていた。
「伏黒と違う班で残念だったわね」
「……ううん、私、きっと任務に集中できないから、ちょうどよかった」
昇級査定も兼ねている任務で上の空になってしまっては困ると大真面目に答えたなずなに野薔薇は肩をすくめる。
すると、少し前を歩く真希が振り向いた。
「恵がどうかしたのかよ?」
声を落として話していたが、真希の耳はしっかり拾ったらしい。
「い、いいえ!なんでもないですっ」
「?」
なずなが慌てて両手を振り、真希はまだ不思議そうにしていたが、更に前を行く新田が止まったのを見て同じように止まる。
「着いたっス」