第19章 一世一代
「ちょ、オイ!」
勢いよく飛び出していったなずなを呼び止めようとしたが、もう手遅れだった。
靴を履いていれば追いかけられたが、追いついたら何と言うべきなのか、咄嗟に出てこなかっただろう。
彼女の言葉を反芻し、思わず手で顔を覆う。
苛立ちを上乗せした厳しい言葉を反論する隙も与えず投げつけたのに?
渡辺にとっては泣かされた相手なのに?
「……嘘、だろ……」
口からはそんな言葉が出たが、先程のなずなの顔が焼きついて頭から離れない。
頬を赤く染め、俯きがちな顔に潤んだ瞳。
その何もかもが嘘などではないという証拠で……
自分は人に好かれるような人間ではない。
身勝手に助ける人間を選び、助けるべきでないと判断した者は助けない。
それでいいと思っていたし、誰かに好かれようと思って行動したこともなかった。
にもかかわらず『好きだ』と。
……どう返事したらいい?
メール……は何か違う気がするし、電話もタイミングが分からないし、出るかどうかを彼女の判断に委ねることになり、負担をかけるような気がする。
あんな風に出ていってしまった直後だし……
かといって直接伝えるためにこんな時間帯に女子寮に行ったら、先輩や釘崎から何を言われるか分かったものじゃない。
どうする、と腕組みして考える。
だが、あくまで悩むのは返事の仕方。
伏黒の返事は既に決まっていた―……