第19章 一世一代
なずなのぎこちない笑顔を見て、伏黒は悲痛そうに眉を寄せた。
「悪いのは俺の方だ。オマエは術師として最善の判断をしたのに、俺自身がもっとしっかりしてれば、防げたこともあったはずなのに八つ当たりしてた」
本当に悪かったと謝って更に続ける。
「けど、オマエに言ったことは俺の本心だ。オマエにはもっと自分を大事にしてほしい」
「ぅ、うん、私、もっと自分のことも考えるようにする。そう思ってくれてすごく嬉しい……あれから、その、伏黒くんに嫌われちゃったって思ってたから……」
「俺は嫌いな奴の心配なんかしねぇよ……むしろ俺の方が嫌われても仕方ないと思ってた」
「えぇ!?そ、そんなことないよ……!」
なずなは慌てて手を振って否定する。
私が伏黒くんのことを嫌いになるなんて、それこそあり得ない。
こっちこそ、いや自分こそとある意味不毛な応酬を繰り広げ、ふとお互いに肩の力が抜けていることに気づいた。
どちらからともなく小さく吹き出してしまう。
なずながようやく見慣れた調子に戻ったことに伏黒は安堵し、そろそろ頃合いかと話を切り上げた。
「もう遅いし女子寮まで送ってく」
「だ、大丈夫!平気だよ、すぐそこだし!伏黒くんこそ任務続きで疲れてるでしょ、早く休んで?」
靴を履こうとする伏黒を慌てて止め、おやすみなさい、と挨拶して寮を出ようとするも、急に胸が切なくなってくる。
伝えたいことは全部伝えた。
仲直り、もできたと思う。
そもそも嫌われてなかったみたいだったし。
ふわりとした安堵感と満足感。
それなのに、ふと頭をよぎったのは『本当に後悔しないか?』という疑問。