第19章 一世一代
なずなが夜9時ちょうどに男子寮に着くと、玄関には既に伏黒が待っていた。
まだ1週間も経っていないはずなのに、こうして顔を合わせるのがすごく懐かしい気がする。
「ぇ、と、今日はありがとう。そ、それから、制服……一応洗濯してあるから。す、すぐに返せなくてごめんね、貸してくれてありがとう」
「別に気にすんな。俺もずっと任務だったしな……」
なずなが若干震える手で袋を差し出すと、伏黒も少し視線を逸らしながら受け取った。
普通に受け取ってくれたことにホッとしたのも束の間、なずなは気を引き締める。
ここからが本番だ。
きちんと伝えられるか不安の方が大きいが、ここで言わなければずっと言えないままになってしまう。
「あの、ね。うまく言えるかどうか、自信がないんだけど……」
胸の前の左手を右手で包むようにぎゅっと握る。
「あの儀式の時、私は死ぬつもりは全然なくて……ただ、あの生贄の子が白稚児に取り込まれてしまったら、また100年、待たないといけなくなる。100年後に白稚児を祓える人がタイミングよく村にいるかは分からないし、この生贄文化を絶つために、今やらなくちゃって思ったの」
「私は自分の怪我は治せる。それに皆が助けてくれると思ったから、白稚児の注意を引くために自分で火をつけた」
結界に閉じ込められた時に生贄の子を伏黒に託して1人残った時もそうだが、皆がいたからこそ選べた手段だった。
自分が死ぬかもしれないなんて、これっぽっちも思わなかったのだ。
「……だから、自己犠牲だとは全然思ってないの。でもすごく心配をかけたから、ちゃんと謝りたくて……逆の立場だったらってことを全然考えてなくて、ごめんなさい。それから、助けてくれてありがとう」
涙を見せたらまた心配をかけてしまうと思って引き結んでしまいそうな口元に力を込めて笑ってみるが、ちゃんと笑顔になってるか自信がなかった。