第5章 怪異迷宮
やみくもに走り抜け、曲がった先、真っ暗な空間に出て、ようやくなずなの頭は冷静さを取り戻してきた。
走っている間、呪霊に遭遇しなくて本当によかった。
ここはぼんやりと白い灯りが点々としている。
よく見ると白く光っているのは、呪霊の残骸だった。
砕けた仮面のような呪霊の残骸が散らばっている。
誰かがここで戦っていたのなら、3人の内の誰かだ。
「これ、野薔薇ちゃんの釘?」
呪霊の残骸には五寸釘が刺さっていた。
「……!」
鬼切の脈動とケタケタと笑い声が聞こえたのはほぼ同時だった。
振り向くと仮面の呪霊が無数に浮いている。
この先に皆がいるなら、早く合流した方がいい。
仮面の呪霊を引き連れていく危険はあるが、どうせ高い所に浮いている呪霊になずなの攻撃は届かない。
ここで応戦しても自分だけでは分が悪すぎるだけだ。
みんな、迷惑かけちゃったら、ごめんなさい。
全身に流れている鬼切の呪力を両脚に集中させ、全速力で走り出した。
どうか背後の呪霊を振り切れますように。
野薔薇は積み重ねた呪霊の残骸を踏みつけ、肩を落とす。
「残りはコレ1本……」
こんなことならもっとたくさん持ってくるんだった。
って後悔しても遅いか……
宙に浮いている呪霊は数が減っているように見えない。
あとは金槌で直接叩くくらいしか攻撃手段がないが、何もないよりはマシだ。
腹を括って金槌を握りしめる。
攻勢が弱まったと見るや否や仮面の呪霊は、野薔薇に殺到してきた。
さすがにこの数を一気に仕留める手段はない。
でも、こんな所で死ぬなんて、絶対に嫌だ。
怨念も込めて金槌を振り下ろす。