第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
村人達の気配が完全に消えるのを待ち、伏黒は木立から出て、置いていったものを確認し始める。
祠の前の白い塊からは弱々しい呪力が細々と上がる線香の煙のように揺らめいている。
―さみしぃ……さみしいよぅ……―
そんなか細い声も聞こえてきた。
村人が拝んでいた白い布に包まれた塊―……
「っ!!」
中を覗くと、そこには儀式を免れたはずの生贄の子が生気を失った状態で眠っていた。
息を呑んだ伏黒はきつく奥歯を噛み締める。
ほら、アイツらはこういう連中だ。
オマエがいくら守ろうとしたって、第二、第三の白稚児が現れる。
結界が張られなくなったことで、この村は呪術師の定期巡回対象となり、強力な呪霊が生まれないようこまめに祓われるだろう。
だが、村人の意識改革まで手は回らない。
村人達が自ら変わろうとしない限り、時間を経て生贄文化が廃れていくのを待つしかないが、果たしていつまでかかるのか……
彼女の命懸けの行動が、その誠意が踏みにじられたように感じ、腹の底から怒りが湧き上がってくる。
「……チッ、胸糞悪ィ」
伏黒は自分でも気づかぬまま、必要以上に力を込めて『さみしい』とすすり泣く蠅頭を祓っていた。