第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
―少しは自分のことも考えろ―
怒鳴るまではいかないものの、次々と自分の思いを口にする伏黒になずなは何も言えなかった。
ただ、伏黒の厳しい言葉を聞いて、何をしてしまったかということだけは痛いほどよく分かった。
言い過ぎたと謝り、去っていく彼の背中がゆらゆらと揺らぎ、やがてなずなの目からぱたりと雫が落ちる。
それを皮切りに涙が溢れて止まらなくなってしまう。
「わ、私……伏黒くんのこと、傷つけちゃった……!」
「アンタは悪くないわよ」
「俺らもびっくりしたけどさ、渡辺も死のうとしてやった訳じゃないんだろ?」
なずなは泣きながらこくりとうなずくが、やはり伏黒を傷つけたことに変わりない。
「で、でもっ……そう見えたなら、伏黒くんは傷ついた、と思う……私、言われてたのに……っ」
伏黒くんに抱きしめられたあの日―……
命だけは捨てないでくれと、言われていたのに―……
あの切なげな声は今でも鮮明に思い出せる。
抱きしめられた腕の温もりだって、忘れたことはない。
それに……
私も八十八橋で気絶して動かない伏黒くんを見て、すごく怖かったのに
それと同じ思いをさせてしまった……!
儀式の時だってすぐに助けに来て火を消してくれて、石を投げられたことにも気づいて心配してくれたのに
白稚児の結界に引きずり込まれた時も、いち早く結界を割って入ってきてくれたのに!
私はその手を掴まなかった。
その思いに応えず、踏みにじったのと同じこと。
「うぅ……っ、ひっく……」
嗚咽で言葉が続かない。