第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
違う……!
本当はこんなことが言いたいんじゃない。
こんな風に傷つけたいわけじゃない。
渡辺が無事で良かった。
呪霊のマーキングの後遺症も全くない。
それは喜ぶべきことのはずだ。
だがその安堵も手伝って、彼女の自身を顧みないやり方、何の迷いもなくその選択をしたことに苛立ちばかりが湧き上がってくる。
感情に任せて口から出てくるのは、彼女を傷つける言葉ばかりで。
「何かあれば逃げろっつったのに儀式が前倒しされても、村の奴らに石を投げられても踏み留まるし、自分の腕に火もつける。死にたかったとしか思えねぇよ」
「伏黒、アンタちょっと言い過ぎよ!」
「オマエらはそれでいいのかよ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着けって」
野薔薇と虎杖も伏黒を宥めようとするが、逆効果になってしまう。
捲し立てる伏黒になずなはかろうじて細い声を絞り出した。
「ぁ、の……わ、私、そ、そんなつもりじゃ……」
「とてもそんな風には見えなかったけどな」
「オイ伏黒!」
虎杖に肩を掴まれてハッとした。
目の前の渡辺は口をへの字に引き結び、縮こまってふるふると震えている。
「……悪ぃ、言い過ぎた」
馬鹿か、俺は……!
あんな風に捲し立てたら、渡辺が萎縮して何も言えなくなることくらい分かんだろうが。
冷や水を浴びたかのような罪悪感。
ここにいたら、何が口をついて出てくるか分からない。より彼女を傷つけてしまう。
物理的に距離を置くため、伏黒はフイと視線を外し、背を向けてその場から離れた。