第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
白稚児の呪力が完全に消え去ったのを確認して、全員が臨戦態勢を解いた。
なずなの顔や腕に浮かび上がっていたマーキングもきれいになくなっていく。
「いや〜、一時はどうなることかと思ったけど、渡辺も無事だし、呪いも祓えてよかったな!」
あっけらかんとした虎杖の声。
「なずなもやればできるじゃない」
「ううん、野薔薇ちゃんが呪物を壊してくれたおかげだよ」
野薔薇に頭を撫でられてはにかむなずな。
白稚児を完全に祓い、それぞれを労う中、伏黒だけはその様子を睨むように見つめていた。
……2人のように彼女の無事を素直に喜べなかった。
無意識の内に拳を強く握り込む。
渡辺、さっきは自分が捕まってる状況で、どうして呪霊に刃を向けた?
俺が間に合ってなかったら、喉を切り裂かれてたんだぞ。
釘崎は褒めてる場合じゃねぇし、虎杖もなんでそんなヘラヘラできんだよ。
モヤモヤと良くない感情が渦巻き、伏黒自身も口に出すつもりはなかったが、気づかぬ内に本心をこぼしていた。
「……良くねぇよ」
「?」
「渡辺、自己犠牲も大概にしろ」
「ぇ、と……」
伏黒の厳しい声色になずながビクリと肩を揺らした。
「なんで人質にされてんのに呪霊に攻撃した?逆上した呪霊が何してくるかなんて、考えなくても分かるだろ!?少しは自分のことも考えろ!」
一度吐露し始めると、堰を切ったように次から次へと彼女の自らを蔑ろにするような行動を思い出してしまい、押し止められない。
「儀式の時だってそうだ。何の疑いもなく生贄文化を継承してるあの村の奴らをあそこまでして守る必要があったか?」