第5章 怪異迷宮
「ここは少年院だぞ。呪術師には現場のあらゆる情報が事前に開示される」
その事前情報によれば、岡崎 正は2度目の無免許運転で下校中の女児を撥ねたことでここに収容された。
ここに入る前、虎杖の言葉に伏黒が頷かなかったのはこのためだった。
まごう事なき悪人を救助する気はない。死んでいるのなら尚更だ。
「オマエは大勢の人間を助け、正しい死に導くことにこだわっているが、自分が助けた人間が将来人を殺したらどうする?」
「……じゃあ、なんで俺は助けたんだよ?」
人を殺す危険性がある、それは虎杖だって同じだ。
窮地だったとはいえ、呪い王・両面宿儺の指を飲み込んだ。
いつ宿儺が出てきてもおかしくない時限爆弾のような自分を、即刻死刑になるような自分を伏黒は、五条先生は、呪術高専は助けてくれたではないか。
掴み合ってお互いを睨む。
一触即発の状況に痺れを切らしたのは野薔薇だった。
「いい加減にしろ!アンタ達、バッカじゃないの!?少しは時と場所を弁えたらどうな……!」
野薔薇の声が不自然に途切れた。
「え、釘崎?」
声のした方に野薔薇の姿はなく、丸い影のような穴があるだけ。
「バカな、呪霊の気配は玉犬が……!」
そこで初めて玉犬がいなくなっていることに気づく。
周囲に目を走らせると、すぐに見つかった。
頭だけ出した形で壁に埋まり、息絶えている無残な姿に目を疑う。
玉犬が感知する前に音もなく殺したのか。
だとしたら、自分達も危ない。
「虎杖、逃げるぞ。釘崎達を探すのはその後……っ!」
一瞬だった。
そこにいるだけで動けなくなるほどのプレッシャー。
2人の目の前に特級呪霊が現れていた。