第5章 怪異迷宮
虎杖、伏黒、野薔薇の3人は周囲を確認したが、なずなの姿はなかった。
「これ、マズイんじゃねーか?」
「玉犬は何も反応してなかった。呪霊に攫われたわけじゃない。……渡辺も呪霊の感知はできるから、すぐに危険はないはずだ」
しかし、いつまでも逃げ回れるわけではないし、何よりなずなには、出口を探す術がない。
虎杖の言う通り、早めに見つけないと危ない。
「渡辺と生存者の捜索、出口の探索、同時並行でやる。先に進むぞ」
3人は配管の並んだ通路を進み始めた。
しばらく細い通路を進むと、広い空間に出た。
先頭の玉犬が反応して伏黒が立ち止まり、虎杖と野薔薇がつられて止まる。
視線の先には上半身しかない遺体と全身がぐちゃぐちゃに丸められた塊がふたつ。
「むごい……」
「3人、でいいんだよな」
間違いなく呪霊の仕業だ。
窓が確認したという呪胎は、既に呪霊に変態している。
早くなずなと合流しなければ。
そんな中、虎杖は遺体に近づき、名札を確認する。
『岡崎 正』
門前で泣き崩れていた女性は「正」と言っていた。
あの女性の息子でまず間違いない。
「……この遺体、持って帰る」
「え……?」
「あの人の子供だ。顔はそんなにやられてない。……遺体もなしで死にましたじゃ、母親からしたら納得できねーだろ」
抱えようとする虎杖のフードが後ろに引っ張られた。
振り返ると伏黒がこちらを睨んでいる。
「早く渡辺を見つけなくちゃならない。残りの2人の生死の確認もある。その遺体は置いていけ」
「振り返ったら来た道がなくなってるんだぞ?後で戻る余裕なんかないって」
冗談じゃないと言いかけた虎杖を伏黒は厳しい口調で遮った。
「後にしろじゃねぇ、置いてけって言ってるんだ!ただでさえ助ける気のない人間を死体になってまで救う気は俺にはない」
「助ける気がないってどういうことだ?」