第5章 怪異迷宮
なずなはどうしようもない自分の方向音痴を呪っていた。
自分が方向音痴なのはよく分かっていた。
そのせいで色々な人に迷惑をかけてきた自覚もある。
でも、こんな、こんなことってある?
「みんな、どこ行っちゃったの……?」
入った時には確かに自分の前に3人がいたはずなのだ。
だが扉を閉じて前に向き直ったら、3人とも姿が見えない。
ついでに入ってきたはずの扉もなくなっていた。
お、落ち着いて、パニックになってはダメ。
そう自分に言い聞かせ、深呼吸する。
まずは連絡しよう。
ここがどこか分からないが、お互いの安否確認は大事だ。
そう思い携帯電話を取り出すが、画面には無常にも「圏外」の文字。
いっぺんに血の気が引いた。
なずなは懸命に伊地知の言っていたことを思い出す。
今回は安否が分からない受刑者5名の生存確認と救助。
呪胎から特級呪霊が生まれる可能性もあり、呪霊に遭遇したら逃げること。
つまり、ひとまず呪霊を避けながらここを探索すればいいということだ。
そして、生存者が見つかれば救助する。
……でも、出口は?
入れたのだから、きっと出口もあるはずだが、どうやって見つければいいのだろうか?
ー自分の恐怖には素直に従ってくださいー
伊地知の言葉が頭に浮かび、凍りつきそうになる足を叱咤して、薄暗い通路を進み始める。
「怖いよ、伏黒くん……」
知らず知らずの内にそう呟いていた。