第5章 怪異迷宮
路地裏のような光景が縦にも横にも広がっている。
室外機、階段、様々な配管がデタラメに伸びているのだ。
「どうなってるんだ?2階建ての寮の中、だよな?」
「お、落ち着け、メゾネットよ!」
虎杖も野薔薇も戸惑いを隠せない。
「違ぇよ」
呪力による生得領域の展開。
伏黒もここまで大きいものは見たことがなかった。
「扉は!?」
全員が振り返るが、入ってきた扉はなくなっていた。
「ドアがなくなってる!?」
「なんで?私達ここから入ってきたわよね!?」
虎杖も野薔薇もプチパニックに陥り、どうしようと踊り出している。
だが、生得領域の中なら扉がなくなっていることも説明がつく。
伏黒は玉犬の首を撫でる。
「大丈夫だ。玉犬が出入口の匂いを覚えてる」
おそらく実際の出入口からは離れてしまっているが、玉犬なら問題なく探せる。
伏黒の言葉に一気に安堵した虎杖と野薔薇はわしゃわしゃと玉犬を撫で回す。
まったく、緊張感の欠片もない。
あれ……?
唯一冷静な伏黒がその異常に気づいた。
「……渡辺、どこいった?」
ここに入る時は最後尾にいたはず。
しかし、今伏黒の見える範囲には虎杖と野薔薇だけ。
なずなは忽然と姿を消していた。