第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
虎杖達に村人の矛先が向けられることは何としても避けたい伊地知は口を酸っぱくして忠告する。
「最低でも呪霊を祓除する直前まではこちらの真意を隠しておいてください。くれぐれも村内では呪霊の話をしないこと。ただでさえ儀式の日なので、村人は神経質になっています」
「……となると村の人に儀式の内容を聞くのもアウト?」
「そこは微妙なラインですね。あくまで儀式が成功するまで生贄を護衛するということを建前にしていますから、儀式の話を全くしないのは逆に怪しまれそうです。あまり深く追及しない程度であれば大丈夫でしょう。……ですが、こちらの主観で生贄の方のことを尋ねるのはやめておいてください」
「例えばどんな質問?」
「生贄の方が自分が生贄となることについて納得しているのか、本当は嫌がっているのではないかといった質問です」
こちらが生贄の儀式そのものに疑問を持っていると村側に思われると警戒レベルが上がる危険性があるためだ。
虎杖にそう答えながら伊地知は時計を見た。
かれこれ山道を走り始めて2時間になろうとしている。
「……あと30分程で無垢蕗村に到着します。村に着いたらまず村長に会ってください。護衛のことを伝えれば、生贄の元へ通されるはずです」
そして最後にどうしても伝えておきたいことを言っておく。
「私は村の結界のすぐ外で待機しています。もし村人に危害を加えられそうになった場合は無理せず村を出てください」
4人とも呪術高専に入ってしばらく経ち、さまざまな経験を積んで呪霊には慣れただろうが、無辜の人々が突如向けてくる敵意、害意にはそうそう慣れるものではないし、慣れてほしくない。
もし危惧しているような事態になれば任務は中断、生贄となる者には申し訳ないが、呪霊の祓除を持ち越しだ。伊地知にとっては学生4人の命には代えられないのだから。