第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
翌朝、バイキング形式の朝食を終えた4人は名残惜しみながら伊地知の車に乗り込んだ。
「あーあ、せめてもう1泊したかったわね」
「今度は任務関係なく来たいよな〜……あ、でも車じゃないと無理なんだっけ?」
そうなると免許を取れない自分達だけでは難しいか、と思ったところで、伊地知がアドバイスする。
「ここまでであれば少し時間はかかりますが、電車とバスを乗り継いで行けますよ。本数がそこまで多くないので、時間は考えないといけませんけどね」
車は温泉町の更に奥の山道を走っていく。
ここからは行楽気分を切り替えなければいけない。
「前回任務に失敗していることもあり、村側には生贄の命を狙う輩がいて、それを阻むために術師を派遣すると伝えています」
「単純に呪いを祓うためって言ったらマズいの?」
「村では呪霊は信仰の対象に近いんです。儀式前の段階で君達が敵視されるようなことを避けるためですね」
まだ呪術界に足を踏み入れて日の浅い虎杖にはピンと来ないが、呪霊を土地神として祀ることは別段珍しいことではない。
特に無垢蕗村では、生贄を捧げれば100年近く他の呪いを防ぐ結界で守られるため、その傾向がかなり強いのだ。
今回の呪霊祓除は大多数の村人からすれば避けたいはず。
正直に任務内容を説明したら、歓迎されないばかりか村に一歩も入れないよう妨害される恐れもあり、村人が受け入れやすい理由をでっち上げたわけだ。
「真意が村側にバレてしまうと最悪の場合、村人全員が敵に回ります」
時として人間は信じられない程変貌するものだ。
まして今回は、村人にとっては伝統的に続いてきた文化を壊されるに等しい。
この任務にあたるのが五条であればどんな妨害も気にする必要なく遂行できただろうが、押しつけられてしまったのだから仕方ない。