第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「ご、ごめんね、待たせちゃって……!」
慌てて出てきたなずなは、虎杖と伏黒もその場にいるのを見て、更に申し訳なくなってしまう。
「先に部屋に戻ってくれてもよかったのに……」
「そんなことしたら、アンタ、迷子になって部屋まで戻れないでしょ」
そうなってから探す方が大変だと肩をすくめた野薔薇になずなの罪悪感は一気に増した。
「ご、ごめん……」
「いいわよ、今に始まったことじゃないんだし」
野薔薇がしょんぼりと縮こまるなずなの肩を叩く。
「それより、あんな長く温泉入っててよくのぼせなかったわね?」
「ずっとお湯に浸かってたわけじゃないよ。ちょこちょこ上がってクールダウンしてたし、入る前にちゃんと水も飲んでたし」
対策を万全にして温泉に臨んだということか。
それにしても長すぎるような気がするが……
その後、4人揃って部屋に戻ろうかというところで、虎杖が店じまいの支度をしている売店に目をやっていた。
「俺、温泉まんじゅう食おうかな」
「何時だと思ってんの?」
「だって、ちょっと腹減ったしさ」
そう言って小走りで売店に入っていく虎杖の背中を見送る野薔薇は目でうんざりだと語っている。
「どんだけ食うのよ……私達は先に戻るわよ」
「うん……あ、ちょっと待って」
野薔薇に促されたなずなは、ベンチに座って若干眠そうにしている伏黒に少しばかり勇気を出して声をかけた。
「ふ、伏黒くん、あの、お、おやすみなさい……」
「ああ、また明日」
「……!」
ほんの一言の挨拶で、舞い上がってしまいそう。
温泉よりこっちの方がよっぽどのぼせるかもしれない。
なずなはぽっと頬を染めるが、それを振り払うように「明日は任務なんだから」と首を振る。
野薔薇の方はもっと積極的にいけばいいのにと焦ったくなるものの、なずなの綻んだ表情を見て出かけた言葉を飲み込み、一緒に部屋へ戻った。