第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
「……渡辺、大丈夫か?のぼせてるんじゃねぇか?」
待てど暮らせど一向に出てこないなずなに、まず痺れを切らしたのは伏黒だった。
「えーっと、俺達が出てからどれくらい経ったの?」
「30分は経ってる」
全員ほぼ同じタイミングで温泉に入ったから、なずなだけ1時間を超えてもまだ入り続けている計算だ。
「私、ちょっと様子見てくるわ」
野薔薇もさすがに心配になり、再び女湯へ入っていった。
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なずなが服を入れていたロッカーにはまだ鍵がかかっている。
これは本当に危ないかもしれないと焦り始めた野薔薇が大浴場に続くドアを開けるために手をかけようとした時、向こう側からドアが開いた。
「あれ、野薔薇ちゃん、どうしたの?」
出てきたなずなは、こちらの心配などお構いなしに「忘れ物でもしたの?」と呑気なものだ。
「アンタねぇ、いくらなんでも長すぎ!のぼせてるかと思ったじゃない!」
「えっ、ご、ごめん、気持ちよくてつい……そんなに長かった……?」
安堵感も手伝って野薔薇はつい捲し立てるような口調になり、なずなは目を丸くしてタオルをぎゅっと握っている。
どうやら自覚がなかったらしい。
普段から入浴時間が長めだとは思っていたが、まさかここまでとは。
慌てて身支度し始めたなずなに「ちゃんと水を飲みなさい!」と注意し、野薔薇は先に出ていく。