第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
ようやく待ちに待った温泉本番。
少し時間が遅めなので、人が少なく、広々としている。
「いいなぁ、野薔薇ちゃん……」
脱いだ服を畳んでいた野薔薇が顔を上げると、タオル片手に入浴準備万端のなずなが自分の胸を手に収めながら少しだけ口を尖らせていた。
「なんでよ?」
「胸おっきくて、羨ましいなって……」
野薔薇の視線は思わずなずなの胸元へ。
確かになずなは手にすっぽり収まるサイズなのに対して野薔薇の方は少なくとも自分の手には収まりきらない。
加えていつも胸を張った姿勢なので、制服を着ていても大きく見える。
「アンタねぇ、羨ましがるなら真希さんの方でしょ」
「真希先輩は別次元というか……胸だけじゃなくて、もう全身が羨ましい……!」
「すごい言い様ね……まぁ、分からなくもないけど」
真顔になったなずなに苦笑する。
別次元というのは決して誇張表現ではない。
長身でスタイルが良いので、どんな服でも似合うし、背筋をスッと伸ばした姿勢はいつ見ても美しい。