第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
長い山道をやっと抜け、宿泊する旅館に着いたのは夕方に差しかかる時間帯だった。
夕食前にいくつか足湯に行くつもりが、あまり時間がない。
「ど、どうしよう?夕食の後にする?」
時計を見たなずながおずおずと尋ね、野薔薇も難しい顔でどうしたものかと思案していると、伏黒がスマホを出してくる。
「ここから近場の足湯、ピックアップしといた。混み具合にもよるけど、2箇所くらいなら回れるんじゃねぇか?」
「ぁ、ありが……」
「伏黒でかした!やっぱアンタも楽しみにしてんじゃない」
「サンキュー伏黒!」
淡く頬を染めたなずなの小さなお礼の言葉は2人の盛り上がる声に埋もれてしまった。
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最初に立ち寄った施設で早速足湯に浸かった4人。
長時間車で座りっぱなしだったのと、気温が下がってきたのも相まって少し熱めの温泉が心地良い。
「あぁー……癒される……」
硫黄の独特な匂いに包まれながら、野薔薇が伸びをした。
その隣ではなずながお湯を堪能するように足の指を開いたり、閉じたりしている。
しかし、ゆっくりしている時間もあまりなく、次の足湯に向かうべく湯から上がり、急ぎ足で支度する。
やはり男子の方が身支度は早く終わったようで、野薔薇となずなが出た先には既に伏黒が待っていた。
が、虎杖の姿は見えない。
「……あれ、虎杖は?」
「あっちで温泉卵食ってる」
伏黒が指差した先、温泉卵や温泉まんじゅうののぼりが立っている売店の前で、虎杖は温泉卵を頬張っている。