第18章 無垢なる贄と仮初の平穏と
懐石料理の写真や朝食バイキングの案内を見る野薔薇と虎杖の横で、なずなは温泉の方に興味津々である。
「野薔薇ちゃん、大浴場には露天風呂が4つもあるって!」
しかも源泉掛け流しだ。
これは1度の入浴だけではもったいない気がする。
できれば夕方に1回、夕飯の後にも1回入りたい。
「温泉だけ入れる所もあるわよ。夕飯の前に行ってみる?」
「行きたい!……あ、でも、バスタオルは持ってきてなくて……」
旅館に備え付けのタオルで済まそうと思って持ってこなかったのが悔やまれる。
現地でタオルを買おうにも持ってきた鞄に入れて持って帰れるか怪しい。
だが、その場で使い捨てにするのはなずなにとってはかなり抵抗がある。
うーんと唸り始めるなずなに苦笑しながら、虎杖が助け舟を出してきた。
「足湯とかなら小さいタオルでいいんじゃね?」
「!」
「虎杖にしちゃ、いいアイデアじゃない。足湯だと……あ、こことか?」
後部座席で盛り上がる3人を尻目に助手席の伏黒が小声で伊地知に話しかける。
「……伊地知さん、任務の話、しなくていいんですか?」
「あんなに楽しみにしてるんですし、任務のことは夕食の後でも構わないでしょう。……伏黒君も皆さんの話に加わっていいんですよ?」
任務とセットであるものの、せっかくの温泉旅行だ。わざわざ水を差す必要はないだろう。
そう言って笑う伊地知の隣で、3人のように浮き足立つのは少々気恥ずかしい伏黒は会話には入らず、しかし手元のスマホでしっかり足湯の施設を調べ始めていた。