第17章 断章 薄墨
「津美紀の母親も少し前から帰ってない。もう俺達は用済みで、2人でよろしくやってるってことだろ」
その年不相応の言動に、しゃがんで目線を合わせた五条は思わず頭を掻いた。
「……君、本当に小1?」
膝に手を当ててよっこらしょと立ち上がる。
「ま、いいや。お父さんのこと知りたくなったら、いつでも聞いて。そこそこ面白いと思うよ……そんじゃ本題、君はどうしたい?禪院家、行きたい?」
「津美紀はどうなる?そこに行けば津美紀は幸せになれるのか?それ次第だ」
「ない。100%ない。それは断言できる」
むしろその逆で、非術師の少女が禪院家に行ったところで、そもそも人間として扱われない。
仮に彼が禪院家に行く場合、絶縁した方が彼女のためだ。
その気配を感じ取ったのか、少年は警戒心を露わにする。
ジリと後退って睨み上げてくる目はますます父親似だ。
五条はくすりと笑ってその小さな頭を撫でる。
「オッケー、後は任せなさい。でも恵君には多少無理してもらうかも。頑張ってね」
そして踵を返すと手を振って歩き出した。
「強くなってよ。僕に置いていかれないくらい」
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2018年10月19日―
「五条先生」
「先生も寝るんだな」
「当たり前でしょ、何言ってんのアンタ」
「あの、起きてください……!」
「五条先生!」
生徒達の声に五条の意識が浮上する。
……ああ、そうだ。任務のために1年生を呼び出したんだった。
アイマスクを上げて、片目だけ覗かせる。
「おっ、起きた」
「お、おはようございます……?」
「呼びつけといて居眠りしないでくださいよ」
目を丸くしている虎杖と少し眉を八の字にしたなずな、口を尖らせている伏黒、その横で指を差している野薔薇。
高専に入学してから着実に力をつけている生徒達に思わず笑みを零すと、真っ先に伏黒が怪訝そうな顔をした。
「何笑ってんスか」
「別に?」