第17章 断章 薄墨
五条は埼玉県の古いアパートが立ち並ぶ地区に足を踏み入れていた。
あちこちガタがきていそうな建物を眺めながら歩くと、目的の人物はすぐに見つかった。
黒いランドセルを背負った少年。
事前の調べによると小学1年生のはずだ。
六眼に映る呪力は確かに並の術師の比ではなく、しっかり術式も刻まれている。
「伏黒 恵君だよね」
その声に少年が振り向いた。
ツンツンとはねた髪は似ていないが、顔は自分を殺しかけたあの男と瓜二つ。
間違いなく奴の子供だ。
「アンタ誰?……っていうか、何その顔」
「いや、ソックリだなと」
苦虫を噛み潰したような五条の顔に少年は首を傾げている。
やや警戒を見せる少年に逃げられる前に、と五条は切り出した。
「君のお父さんさ、禪院っていういいとこの呪術師の家系なんだけど、僕が引くレベルのろくでなしで、お家出てって君を作ったってわけ」
「君、見える側だし持ってる側でしょ。自分の術式にも気づいてるんじゃない?」
あの男が呪いや呪術師についてこの少年に話していたかはさておき、この年頃であれば自分に見えている呪いが大多数には見えていないことや自身の術式にも気づくはず。
「禪院家は術式・才能大好き。術式を自覚するのが大体4〜6歳、売買のタイミングとしてはベターだよね」
五条は指で丸を作る。
「恵君はさ、君のお父さんが禪院家に対してとっておいた最高のカードだったんだよ。ムカつくでしょ?」
「で、そのお父さんなんだけど、僕がこ……」
「別に。アイツがどこで何してようと興味ない。何年も会ってないから顔も覚えてない。今ので大体話は分かった」
キッパリと五条を遮った少年がちらりと見た先に目をやると、近くのアパートの2階から少年と同じくらいの年頃の少女がこちらを見ている。
おそらく少年と同居しているひとつ上の姉だろう。