第17章 断章 薄墨
高専に戻った五条が階段に座り、項垂れているとゆっくりとした足音に続いて夜蛾の声が降ってきた。
「何故追わなかった」
「……それ、聞きます?」
「……いや、いい。悪かった」
「先生、俺、強いよね?」
「ああ、生意気にもな」
「でも、俺だけ強くても駄目らしいよ……俺が救えるのは、他人に救われる準備がある奴だけだ」
そして、傑はそれを望んではいなかった。
忙しい日常の中でも笑い合ったり、一緒になって馬鹿やったり……
そういう関係が当たり前のようにずっと続くのだと漠然と思っていた。
崩れることなどあり得ないと。
でも別れは唐突に訪れて―……
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夏油の離反が決定的なものとなってから数ヶ月、もうすぐ4年に進級するというある日のこと―
「……悟、本気か?」
「らしくないって言いたいんでしょ。だけどもう決めたんで」
夜蛾はにわかに信じがたいといった様子で提出された紙に目を落とす。
そこには流麗な字でこう書かれていた。
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進路希望調査
第一志望 呪術高専教師
第二志望 なし
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「このクソ呪術界を変えてやる」
五条が自分の手で呪術界の上層部を消すことは容易いが、それでは首がすげ替わるだけで意味がない。
まずは聡い仲間を育てるところからだ。
少なくとも1人は候補として心当たりがある。