第17章 断章 薄墨
変わり果てた親友に五条は冷静ではいられない。
呪術は弱者を守るためにあるのだと事あるごとに語っていた傑はどこへ行った!?
「できもしねぇことをセコセコやんのを意味ねぇっつーんだよ!!」
「傲慢だな」
「あ゛?」
「君にならできるだろ、悟」
五条は瞠目して言葉を失う。
……否定、できなかった。
「自分にできることを他人には『できやしない』と言い聞かせるのか?」
黙した五条に静かに畳みかける。
「君は五条悟だから最強なのか?最強だから五条悟なのか?」
「……何が言いてぇんだよ」
「もし私が君になれるのなら、この馬鹿げた理想も地に足が着くと思わないか?」
そう言って夏油はゆっくりと踵を返し、五条に背を向けて歩き出す。
「生き方は決めた。後は自分にできることを精一杯やるさ」
五条は離れ始めた背中に掌印を向ける。
その気配を夏油も感じたのか、こちらに振り向かずに言い放つ。
「殺したければ殺せ。それには意味がある」
雑踏へ消えていく夏油の背はどんどん小さくなる。
殺さなくてはいけない。
放っておけば、非術師が何人殺される分からないのだ。
頭では分かっている。
だが、それでも―……
どうしても手を下すことができなかった。
右手を下ろした時には、もう夏油の姿は見えなくなっていた。