第17章 断章 薄墨
『夏油いたよ』
家入の声に五条は思わず携帯電話を握る手に力が入った。
タチの悪い冗談ではないことは直前に送られてきた写真で分かる。
「硝子、いつもの喫煙所か?」
『そ、新宿』
新宿、ならばそう時間はかからない。
最短経路を割り出して電話を切らずに歩き出す。
「俺がそっち行くまで傑押さえてろ」
『ヤダよ、殺されたくないもん』
思わず舌打ちが漏れ出てしまう。
だが、家入の言うことも分からなくもないので、それ以上無理は言えない。
たとえ命懸けで足止めしたとしても、彼相手ではそんなに時間は稼げないだろうし。
「傑、何か言ってるか?」
『術師だけの世界を作るんだって……アイツ、本気だよ』
通話を切った五条はますます足早になっていく。
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夏油は新宿の喫煙所から離れ、静かに街中を歩いていた。
嫌だと言っていた言葉通り、家入からの妨害は特にない。
ここからが運試しの本番だ。
雑踏を歩いていると、予想通り見慣れた白髪が目に入ってきた。
「説明しろ、傑」
低い声で迫る五条の海あるいは空を思わせる深い青の瞳を見据える。
「硝子から聞いただろ?それ以上でも以下でもないさ」
―術師だけの世界を作る―
五条が家入から聞いた夏油の動機だ。
夏油自らの肯定を聞いても、それでもまだどこかでこれは間違いだと、彼は何か勘違いをしていると思いたくて仕方ない。
「だから術師以外殺すってか!?親も!?」
「親だけ特別というわけにはいかないだろ。それにもう私の家族はあの人達だけじゃない」
「んなこと聞いてねぇ。意味ない殺しはしねぇんじゃなかったのか!?」
「意味はある、意義もね。大義ですらある」
「ねぇよ!!非術師殺して術師だけの世界を作る?無理に決まってんだろ!!」