第17章 断章 薄墨
直接会ってどういうことなのか確かめなければ。
五条はその一心で夏油を探し回った。
夏油が行方知れずになった村にも足を運んだものの、当然ながらもぬけの殻。
今は片付けられているが、報告によると大量の血溜まりの中に夏油の制服のボタンが落ちていたらしい。
かつて村落だったその場所を見渡し、そこにあった僅かな残穢を捉える。
確かに夏油のものだ。
六眼で見間違えるはずのないものだが、どうしても納得できない。
まるで見えない壁でもあるかのように頭も心も理解を拒む。
焦燥に駆られながら数日が経過した頃、家入から電話が入った。
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新宿の喫煙スペースで家入が制服で堂々と煙草を取り出して咥えると、背後から聞き慣れた声がかけられた。
「火、いるかい?」
内心驚きながらそちらを見ると、右手を上げて笑う夏油がいる。
その表情は犯罪を犯した者とは思えないくらいすっきりとしていた。
正直、行方不明になる前の何かを抱え込むように思い悩んだ表情よりずっと顔色が良くなっているくらいだ。
「犯罪者じゃん、何か用?」
「運試しってとこかな」
「ふーん」
お言葉に甘えて煙草に火を点けてもらう。
「一応聞くけど、冤罪だったりする?」
煙を吐きながら、一抹の期待を込めて尋ねるが、夏油は清々しい表情のまま。
「ないね、残念ながら」
「重ねて一応。何で?」
「術師だけの世界を作るんだ」
「ははっ、意味分かんねー」
家入は携帯で夏油を撮影し、五条へ送信した後、電話をかけ始める。
誰に電話しようといているかは夏油にも分かるはずだが、彼はその場から動かない。
「子供じゃないんだ。誰でも彼でも理解して欲しいとは思わないさ」
「どうせ誰も理解してくれないって腐るのもそれなりに子供だと思うけど?……あ、五条?」