第17章 断章 薄墨
大きく軋んだ心を抱えたまま、それでも任務がなくなることはない。
とある村での任務を終えた夏油は村人に案内された座敷牢の前で額を掻いた。
「これは、何ですか?」
牢の中には年端もいかない2人の少女がお互いを抱きしめ、怯えきった目でこちらを見上げている。
2人とも腕や顔に殴られたアザが目立つ。
そんな痛々しい少女達を監禁しているというのに、村人の目には不気味という感情しかない。
「なにとは……?この2人が一連の事件の原因でしょう?」
「違います。事件の原因は、もう私が取り除きました」
この村で頻発していた神隠しや変死。
その原因となっていた呪霊は先程夏油が祓った。
村人にまだ事件の原因が残っていると聞いてついて来てみたら、この有様だ。
「この2人は頭がおかしい。不思議な力で村人を度々襲うのです」
「私の孫もこの2人に殺されかけたことがあります」
「それはあっちが―……」
少女達の弱々しい抗議は老婆に遮られる。
「黙りなさい!化物め!!あなた達の親もそうだった。やはり赤子の内に殺しておくべきだった!」
村人の口振りから彼女達は呪術が使えるのだろう。
だが、それを理解できない村人から気味悪がられ迫害を受けている。
おそらく夏油が直接少女達を宥めようとしても逆効果、警戒を強めるだけだ。
彼女達だけに伝わる方法、指先から呪霊を出し、その呪霊の言葉で宥めた。
そしてにこやかに背後に振り返り、努めて穏やかな口調で村人を促す。
「皆さん、一旦外に出ましょうか」
―非術師を見下す自分―
―それを否定する自分―
―どちらを本音にするかは、君がこれから選択するんだよ。
この瞬間、カチリと心が決まった。
今までずっと悩んでいたことが嘘のように晴れた心持ちだ。
座敷牢を出た後、村中に恐怖の悲鳴が響いた。