第17章 断章 薄墨
「冗談、でも高専と方針が合わないのは本当だ。ここの人達がやってるのは対症療法、私は原因療法がしたいの」
「原因療法?」
「呪霊を狩るんじゃなくて、呪霊の生まれない世界を作ろうよってこと」
その言葉に息を呑む。
それは夏油がここ1年程ずっと考え続けて答えの出ない悩み―このマラソンゲームを終わらせることができるのではないか。
「少し授業をしようか……そもそも呪霊とは何かな?」
「人間から漏出した呪力が澱のように積み重なり、形を成したモノです」
「エクセレント。すると、呪霊の生まれない世界の作り方は2つ」
九十九は人差し指、中指と順番に立てる。
「①全人類から呪力をなくす。②全人類に呪力コントロールを可能にさせる……①はね、結構イイ線いくと思ったんだ、モデルケースもいたしね」
「モデルケース?」
「君もよく知っている人さ」
“いた”という過去形なのが少し引っかかる。
「禪院 甚爾。天与呪縛によって呪力が一般人並みになるケースはいくつか見てきたけど、呪力が完全にゼロなのは、世界中探しても彼1人だった」
盤星教から星漿体暗殺を請け負い、理子を殺した男。
禪院家の出身だったと判明したのは五条が彼を殺した後だった。
「彼の面白い点はそれだけじゃない。禪院 甚爾は呪力ゼロにも拘わらず、五感で呪霊を認識できた。呪力を完全に捨て去ることで、彼の肉体は一線を画し、逆に呪いの耐性を得たんだよ」