第17章 断章 薄墨
夏油はコーヒー、灰原はコーラを飲みながら少し話していると、重いブーツの足音が近づいてきた。
「君が夏油君?」
開口一番にそう尋ねてきたのは背の高い金髪の女性。
顔立ちは日本人、ここまで入ってきているのだから高専関係者なのだろうが、初めて見る顔だ。
訝しむ夏油に構わず、女性は更に質問してくる。
「どんな女がタイプかな?」
「……どちら様ですか?」
「自分は沢山食べる子が好きです!!」
隣で即答した灰原に女性のことを警戒していた夏油は思わず苦笑する。
「灰原……」
「大丈夫ですよ、悪い人じゃないです。人を見る目には自信があります」
「……私の隣に座っておいてか?」
邪気なく笑う灰原に卑屈にも皮肉を漏らしてしまう。
「?……ハイ!」
しかし、それは灰原には通用しなかったようだ。
その返事に声を上げて笑ったのは金髪の女性の方だった。
「あっはは、君、今のは皮肉だよ」
その後、失礼しまーすと会釈して帰った灰原の代わりに夏油の隣に女性が座る。
「後輩?素直でカワイイじゃないか」
「術師としてはもっと人を疑うべきかと」
「で、夏油君は答えてくれないのかな?」
「まずはあなたが答えてくださいよ」
一体彼女は誰なんだ。
「特級術師 九十九 由基(つくも ゆき)……って言えば分かるかな?」
「!……あなたがあの……!?」
「おっいいね、どのどの?」
「特級のくせに任務を全く受けず、海外をプラプラしてるろくでなしの……」
散々な言われように九十九は拗ねたように大きくため息をつく。
「私、高専って嫌ーい」
少々困惑気味の夏油に九十九は肩をすくませ、口角を上げた。