第17章 断章 薄墨
「あ、夏油さん!」
自販機が置かれた休憩スペースのベンチで項垂れていた夏油は、灰原の明るい声に顔を上げた。
「灰原……」
「お疲れ様です!!」
ピシッと姿勢を正して挨拶する後輩。
「……何か飲むか?」
「えぇ!?悪いですよ、コーラで!」
元気よく要望を伝えてきた灰原に夏油は思わず笑ってしまう。
胸の中に澱んでいた黒い感情も少し小さくなり、自販機でコーヒーとコーラを買って、灰原にコーラを渡した。
灰原はありがとうございます!とこれまた元気よくお礼を言ったと思ったら、早速コーラを一口飲んでいる。
「明日の任務、結構遠出なんですよ」
「そうか、お土産頼むよ」
「了解です!!甘いのとしょっぱいの、どっちがいいですか?」
「悟も食べるかもしれないから甘いのかな」
明るくて素直な灰原、同級生の七海は無愛想ではあるが、情が深い。
心優しい2人の後輩が呪術師という決して綺麗とは言えない環境に身を置いているのが心配になってくる。
「……灰原、呪術師やっていけそうか?辛くないか?」
「そー……ですね、自分はあまり物事を深く考えない性質なので……」
顎に手を当てて少し考えるが、すぐにピンと閃いたように答えた。
「自分にできることを精一杯頑張るのは気持ちがいいです」
「そうか……そうだな」
さっぱりとしたその答えは夏油が思い悩んでいたものとは視点が全く異なるが、それでも納得できる答えだった。