第17章 断章 薄墨
……悟は“最強”に成った。
任務も全て1人でこなす。
硝子は反転術式で他人を治療できる貴重な人材ゆえに、元々危険な任務で外に出ることはない。
必然的に自分も1人になることが増えた。
「傑、ちょっと痩せた?大丈夫か?」
夏油は声をかけてきた五条と視線を合わせられない。
「ただの夏バテさ、大丈夫」
「ソーメン食い過ぎた?」
その夏は忙しかった。
昨年頻繁した災害の影響もあったのだろう。
蛆のように呪霊が湧いた。
祓う
取り込む
その繰り返し
拳大の黒い球体になった呪霊をねじ込むように口に入れて飲み下す。
皆は知らない、呪霊の味
吐瀉物を処理した雑巾を丸飲みしているような―……
祓う
取り込む
……誰のために?
理子が殺されたあの日から、自分に言い聞かせている。
私が見たものは、何も珍しくない。
今までも数多く見てきた
―周知の醜悪―
その醜悪を知った上で、私は術師として人々を救う選択をしたはずだ。
しかし、頭の中では黒々とした澱がどろりと流れてくる。
それはシャワーを浴びても消えることなく……
あの時、にこやかに拍手していた盤星教の一般教徒達の顔が歪む。
ブレるな、
強者としての責任を果たせ
そう言い聞かせるが、口からは正反対の言葉が出てくる。
「猿め……」
シャワーを止め、長い髪から滴り落ちる水滴など気にならなかった。