第4章 宿儺の器と鉄骨娘
「野薔薇ちゃん、怪我はない?」
「大丈夫よ。問題ないわ」
心配そうに駆け寄ったなずなに野薔薇は手を振る。
「だから言ったろ?1人は危ない、真面目にやれって」
「1人は危ないなんて言われてないわよっ!」
「言、ってなかった?」
無事ビルの呪いを祓って一件落着とはいかず、また2人の言い争いが始まってしまった。
「っていうか、何食って育てば素手で壁ぶち破れるのよ?」
「鉄コンじゃなかったんだよ!」
「鉄コンじゃなくても普通に無理よ!!」
虎杖の言い訳と野薔薇の絶妙なツッコミになずなも救助された男の子も苦笑いして顔を見合わせる。
「……しかしさ、俺も散々聞かれたけど、釘崎はなんで呪術高専に来たんだよ?」
「なんでって……田舎が嫌で、東京に住みたかったから!!」
「ええっ!?」
虎杖もなずなも雷に撃たれたような衝撃を受ける。
「お金の事を気にせず上京するには、こうするしかなかったの」
「そ、そんな理由で命懸けられるの!?」
「懸けられるわ」
野薔薇の言葉には迷いがなかった。
「私が私であるためだもの」
野薔薇の中にある沙織ちゃんとの優しい思い出。
やっと東京まで来れたのだ。
この先、沙織ちゃんとも再会できるかもしれない。
「そういう意味ではアンタ達にも感謝してる。私が死んでも、私だけが生き残っても、明るい未来はなかったわ……ありがとう」
野薔薇の笑顔は晴れ晴れとしている。
「まぁ、理由が重けりゃ偉いわけでもねーか」
「理由は人それぞれだもんね」
出口に向かった野薔薇はこちらに振り向くと、ビシッと一文字に腕を伸ばし、悪い笑みを浮かべて言い放った。
「お礼言ったからこれでチャラよ。貸し借りなし!」