第4章 宿儺の器と鉄骨娘
2階への階段を上っていると、鬼切がまたも反応した。
「上の階、呪霊がいる。たぶん複数」
「釘崎の方か?」
「うん、急ごう」
野薔薇がどんな呪術を使うのかは知らないが、1人で複数を相手にするのは危ない。
階段を駆け上がると子供の悲鳴が、その後野薔薇の罵声が聞こえてきた。
ドアに手をかけた虎杖をなずなが制止する。
「待って、裏から回ろう」
正面から突入するのは危ない。
そう直感したなずなは虎杖と一緒に静かに、できるだけ急いで移動した。
「この辺か?」
「うん、ちょうどこの壁の向こうにいると思う」
悲鳴から判断するに、子供もいるはずだ。すぐに救助しなければ。
鬼切は壁くらいなら難なく切れる。
なずなが鬼切を上段に構え、振り下ろそうとしたその時、ヒュッと風を切る音がした。
「えっ、ちょっと!?」
虎杖が拳で壁に穴を開けたのだ。しかも呪力なしの素手。
しかし、思った手応えがない。
「アレ?外した?」
拳大の穴を起点に体当たりで壁を破った先には呪霊。
と頭を掴まれた男の子。
すぐさま虎杖が男の子を掴んでいる腕を切り落とし、救出する。
間髪入れずになずなが呪霊に切り込むが、すんでのところでかわされ、腕を切られた呪霊は逃げ出そうと窓へ走った。
なずなも追いかけるが、壁をすり抜けて建物の外へ出てしまう。
どうする、窓を割って追いかけようか?
逡巡していると背後から野薔薇の鋭い声が飛んできた。
「逃すか。虎杖、その腕よこせ!」
虎杖は戸惑いながらも野薔薇の方へ呪霊の腕を投げる。
制服の内側から取り出した藁人形を呪霊の腕に重ねると、小さく陰湿、と声が聞こえた気がしたが、そんなことは無視して五寸釘を打ち込んだ。
「芻霊呪法・共鳴り」
ギャァと外から呪霊の断末魔が聞こえた。
と同時に廃ビル全体の呪いの気配が消える。