第17章 断章 薄墨
1年後
2007年 8月―
あることを試したいと言ってきた五条に夏油と家入は付き合い、グラウンドに出ていた。
「いっくよー」
そう言った家入が持っているのはペン、隣の夏油は消しゴムを持ち、五条に向かって同時に投げる。
すると、ペンは五条の手前で止まり、消しゴムは頭にコツンとぶつかった。
「うん、いけるね」
五条は満足げにうなずき、それらが地面に落下し始めたところをキャッチする。
「げ、何今の」
「術式対象の自動選択か?」
「そ、正確に言うと術式対象は俺だけど……今までマニュアルでやってたのをオートマにした。呪力の強弱だけじゃなく、質量・速度・形状からも物体の危険度を選別できる」
物体の他に毒物等も自動選別できればもっといいが、それはまだ難しい。
だがいずれは会得する。
「これなら最小限のリソースで無下限呪術をほぼ出しっぱにできる」
「出しっぱなしなんて、脳が焼き切れるよ」
「自己補完の範疇で反転術式も回し続ける。いつでも新鮮な脳をお届けだ」
反転術式があれば、家入の懸念も克服した上で無下限呪術の常時発動ができる。
「前からやってた掌印の省略は完璧にできてるし、“赫”と“蒼”、それぞれの複数同時発動もボチボチ……あとの課題は領域と長距離の瞬間移動かな」
領域は今は置いておくとして、瞬間移動の方は突破口が既に見えていた。
「高専を起点に障害物のないコースをあらかじめ引いておけば可能だと思うんだ。硝子、実験用のラット貸してよ」
「えー……」
そんなやり取りが夏油にはどこか遠くに聞こえる。