第16章 断章 極彩
一方、五条は殺された理子を思う。
五条が反転術式で自分の傷を治した時には、遠くに見えていた理子の呪力はもう消えていた。
五条が足止めしきれずにあの男を行かせてしまったのだ。
天元の結界に辿り着く前に殺されてしまったということは想像に難くない。
―ごめん、天内……
俺は今、オマエのために怒ってない。
誰も憎んじゃいない。
今は、ただただこの世界が心地良い。
建物を抉り、瓦礫と土煙で目眩しされても、覚醒した五条の眼には頭上から振り下ろされる天逆鉾の呪力がハッキリと捉えられる。
凄まじい速度のはずだが、今の五条にはさほど速いとは感じなかった。
余裕すら感じる中、自分を殺しかけた男を見据える。
代々伝わる相伝の術式のメリットは、あらかじめ先代の築いた術式の取説があること。
デメリットは術式の情報が漏れやすいこと。
五条が初めて発動に成功した“赫”にもあの男は動じていなかった。
アンタ、御三家……
禪院家の人間だろ。
“蒼”も“赫”も、無下限呪術のことはよく知ってるわけだ。
だがコレは、五条家の中でもごく一部の人間しか知らない。
順転と反転
それぞれの無限を衝突させることで生成される仮想の質量を押し出す―
向かってくる天逆鉾は無視して甚爾に掌印を向ける。
呪力の核心を掴んだ今なら発動できる。
虚式
―茈―